理事長ブログ
【薬師堂診療所】新型コロナウイルス感染とがん治療への影響
新型コロナウイルス感染とがん治療への影響
新型コロナウイルスのがん患者さんへの影響を考えるに際しまして参考となる文献が
Lancet oncology 2020.3月号に掲載されました。これについてがん患者さんやがん治療
を行っている先生方の何かの参考になればと思い日本語訳と追加の表を作成しました。
SARS-CoV-2感染症のがん患者:中国での全国的な分析
【背景】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARSCoV-2)=COVID-19=ベータコロナウイルス
が中国および世界の他の地域で発生している。中国では422,747例が感染、1017例が死亡した。
SARSなどの他のコロナウイルス感染症と比較して、COVID-19による死亡は、呼吸不全ではなく、多臓器不全症候群が原因である。これは、アンギオテンシン変換酵素2(SARS-CoV-2の機能的受容体)が複数の臓器に広く分布しているためと考えられます。そして、がん患者は非がん患者よりも感染しやすい傾向があり、がん自体や化学療法や手術などの抗癌治療が引き金となる免疫抑制影響が示唆され、がん患者はCOVID-19の感染リスクが高く、予後が悪い可能性がある。
【方法】
中国では国家レベルでCOVID-19症例を監視するための前向きコホート研究を実施した。中国の575か所の病院から2007症例を抽出し、解析した。2007症例は、PCR検査によりCOVID-19急性呼吸器疾患と診断かつ入院した患者です。病歴不明の417例を除外した。
【結果】
COVID-19症例1590例のうち18例(1%; 95%CI 0・61–1・65)に、がんの既往あり。がん患者でもっとも多かったのは肺がん 5/18(28%)。COVID-19感染したがん患者18例中、治療状況が不明の患者 2 例、1カ月以内に手術または化学療法治療患者 4例(4/16=25%)、がん手術歴のあるフォロー中の患者 12例(12/16=75%)。
新型コロナウイルス感染者の患者背景
表1.新型コロナウイルス感染で重症化した割合(がん患者vs非がん患者)
これについて補足を下表1に示す。
※ICU入室、人工呼吸器管理、死亡などのイベント
表2. 新型コロナウイルス感染で重症化した割合
(1カ月以内にがん治療を受けた患者 vs それ以外のがん患者)
これについての補足を下表2に示す。
※ICU入室、人工呼吸器管理、死亡などのイベント
- 年齢、喫煙歴などのその他のリスク要因を調整した後、ロジスティック回帰施行(オッズ比[OR] 5・34(95%CI ;1・80–16・18, p = 0・0026 )
- がん患者の中で、高齢者が重篤な事象の因子である傾向があった(オッズ比[OR] 1・43:95%CI; 0・97–2・12, p = 0・072)
- 肺がんの患者は、他のがんの種類の患者と比較して重篤なイベントの確率が高くなかった。
- 肺がん患者 vs他のがんの患者=1/5 [20%] vs 8/13 [62%]( p = 0・294)
図1.Cox回帰モデルを使用して、重篤なイベントが発生する時間依存性ハザードを評価し、がん患者は非がん患者よりも急速に悪化
重篤なイベントまでの中央値13日間(p <0・0001;ハザード比3・56、95%CI 1・65–7・69)
【結論】
この研究では、がんのある患者は、がんのない患者よりもCOVID-19のリスクが高い可能性があり、さらに、がん患者はCOVID-19の転帰が不良であることを示し、急速に悪化することに注意が必要である。以上の結果より、新型コロナウイルス感染症のがん患者に対する治療戦略の提案される。
1) 流行地域では、安定したがん患者に対する補助化学療法または待機的手術の延期の検討。
2) がん患者またはがんサバイバーに対して、より強力な個人保護規定を作成する必要がある。
3) がん患者がSARS-CoV-2に感染している場合、特に高齢患者や他の併存症の患者では、より集中的な監視または治療を検討する必要がある。
考察;がん患者は新型コロナウイルスに感染すると重症化するリスクが示唆された。しかしながら、本研究で示されたがん患者の母集団が非常に少なくまた、症例ごとの詳細な解析が行われていないためがん患者全体での注意とまでとは言えず、普遍的な考えとまでは言い切れない。がん治療の免疫抑制作用に対する予防的処置や肺炎の引き金となる要因が交絡として存在することに十分注意して、臨床的には個々の症例ごとの治療介入の選択に十分注意して対応することが必要と考える。
Reference
Liang W1, Guan W2, Chen R2, et al.
Cancer patients in SARS-CoV-2 infection: a nationwide analysis in China.
Lancet Oncol. 2020 Mar;21(3):335-337.